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横浜地方裁判所 昭和56年(タ)87号 判決

原告

X

右訴訟代理人

御宿義

被告

Y

右訴訟代理人

小谷薫

主文

1  被告は、原告に対し、別紙文書目録記載の文書のうち横浜市鶴見区○○×丁目×××番××宅地の権利証を引渡せ。

2  株式会社横浜銀行日吉支店のX名義の定期預金二〇〇万円(預金番号一二五六八七)の預金者が原告であることを確認する。

3  被告は、原告に対し右定期預金の通帳及び届出印鑑を引渡せ。

4  被告は、原告に対し、金九、六八三、五〇八円及びこれに対する昭和五六年六月二七日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  原告のその余の請求を棄却する。

6  訴訟費用は、これを二分し、その一は原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

理由

第一請求の原因一の事実

当事者間に争いがない。

第二請求の原因二の事実

一〈証拠〉によれば、横浜市鶴見区○○×丁目×××番××の宅地が原告の所有に属することが認められ、被告が右土地の権利証を所持していることは被告の自認するところであるから、右権利証の返還を求める原告の請求は理由がある。しかし、賀茂郡の山林については、原告の所有を肯認するに足りる証拠がなく、また、〈証拠〉によれば、吉原四丁目の宅地三筆については、原告が既に他に売却している事実が認められるので、これらの土地の権利証の返還を求める原告の請求は排斥を免れない。

二当事者間に争いがない事実並びに〈証拠〉によれば、原告は、別表記載のとおり、昭和三八年一一月から同四八年一〇月までの間にX家伝来の不動産を処分して合計金四七、四七四、〇〇〇円の収入を得、また、この期間中の不動産関係の支出は、合計金二三、五五二、八〇〇円であることが認められる。

三原告は、収入と支出との差額金二三、九二一、二〇〇円を被告が隠匿したと主張し、原告本人尋問の結果(第一、二回)中には、これにそう部分があるけれども、右の昭和三八年から同四八年までの十年間は、原告本人の供述(第一回)によつても原被告間の婚姻関係が破綻していた時代ではないのであるから、右の金員の大部分は原被告間の婚姻生活の維持のために費消したものと推認するのが相当である。本件全証拠によつても、被告が婚姻生活外に於て、必要以上の浪費をしていたと認める事は出来ないし、却つて、被告本人の供述によれば、原被告間の長女Aは、右の一〇年の間に、小学校から大学まで、私立学校に在学した上、女子美術短大、田中千代服装学園専攻科、土井勝料理学校などを卒業しており、長男Bも千葉大学理学部を卒業しているなど学資に多額の費用を要したことは推察に難くないので、被告が原告主張のような隠匿行為をしたということは出来ない。

四当事者間に争いがない事実並びに〈証拠〉によれば、請求原因事実二3及び4の事実が認められる。(但し、退職金額は、金一三、五八一、〇〇〇円、社内預金額は金一、〇一四、三七〇円)右認定に反する被告本人尋問の結果は、前掲各供述に照して措信し難く他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

五被告は、請求の趣旨二及び三並びに請求の原因二4の主張は、訴訟手続を著るしく遅延せしめるものであると主張するけれども、本件審理の経過に照して(訴変更後、一回の口頭弁論により終結)その理由がないことは明白であるから、右主張は排斥を免れない。

第三結論

よつて、原告の本訴請求中、被告に対して鶴見区の宅地の権利証の返還、退職金と社内預金の合計額から、原告名義で現在する預金額を控除した残金九、六八三、五〇八円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五六年六月二七日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払、主文2掲記の定期預金債権が原告に属する旨の確認と右定期預金の通帳届出印鑑の引渡を求める部分は理由があるからこれを正当として認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(三井哲夫)

別表、文書目録、物件目録〈省略〉

事実及び争点

第一 請求の趣旨

一 被告は、原告に対し別紙文書目録記載の文書を引渡せ。

二 株式会社横浜銀行日吉支店のX名義定期預金二〇〇万円(番号一二五六八七)の預金者が原告であることを確認する。

三 被告は、原告に対し、右定期預金の通帳及び届出印鑑を引渡せ。

四 被告は、原告に対し金三三、六二一、二〇〇円及びこれに対する昭和五六年六月二七日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五 訴訟費用は、被告の負担とする。

第二 請求の原因

一 原告と被告とは、昭和二三年五月一七日に婚姻の届出をしたが、現在、離婚訴訟(当庁昭和五六年(タ)第一〇〇号事件)で係争中である。

二 被告は、昭和四〇年ごろから、原告所有財産を長期にわたり隠匿し続けたが、その詳細は次のとおりである。

1 別紙文書目録に掲げる原告所有の土地の権利証三通を原告の実印及び印鑑証と共に持出して隠匿し、原告の返還請求に応じない。

2 原告は、昭和三八年一一月から同四八年一〇月までの間に、X家伝来の不動産を処分して合計四七、四七四、〇〇〇円の収入を得た。この期間中の不動産関係の支出は二三、五五二、八〇〇円であるから、その差額は、二三、九二一、二〇〇円となるところ、被告は右金額を隠匿している。(その詳細は別表記載のとおり)

3 原告は、日本○○○○○株式会社退職の際、退職金一三、六一一、八六二円と社内預金一〇〇万円の合計金一四、六一一、八六二円を有し、退職金は富士銀行鶴見支店に、社内預金は郵便局に全額預金しておいたところ、被告は、父とともに強硬に引渡を求めた。原告は、共同で管理する条件で応じ、通帳、届出印鑑を引渡したところ、その後原告が右金員の管理方法を相談しても被告が返事をしないので不審に思い調査した結果、原告名義の定期預金三〇〇万円、普通預金一、九一一、八六二円を残すのみであつた。

4 請求の趣旨二に掲げる定期預金は、原告が被告による財産隠匿に気付き、調査した結果発見したもので、前記2の金員の一部であるが、被告が銀行に工作した結果、支払が凍結されている。

三 よつて、原告は被告に対し、土地所有権に基いて別紙文書目録に掲げる各土地の権利証三通の引渡を求め、かつ、被告が隠匿した前記二2及び3の金額合計金三八、五三三、〇六二円から原告が取戻した金四、九一一、八六二円を控除した金三三、六二一、二〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五六年六月二七日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、請求の趣旨二記載の定期預金債権が原告に属する旨の確認と右定期預金の通帳及び届出印鑑の引渡を求めるため本訴請求に及んだ。

第三 請求の趣旨及び原因に対する答弁

一 請求棄却の判決を求める。

二 請求の原因一の事実は認める。

三 同二の事実のうち、原告主張の権利証三通を被告が所持していること(但し、富士市所在の三筆の宅地は、昭和五六年四月に原告が第三者に売却済である。)、原告がその主張のころに、その主張のような不動産を処分したこと、原告が日本○○○○○株式会社を退職して退職金及び社内預金を受取つて、その主張の通りに預金したこと、原告名義の定期預金及び普通預金があることは何れも認める。不動産処分の日時、金額、支出額、原告が受領した退職金及び社内預金の額、原告名義の定期預金及び普通預金の額は知らない。その余の事実は否認する。

四 請求の趣旨二及び三並びに請求の原因二4の主張は、訴訟手続を著るしく遅延せしめる時機に後れた攻撃方法であるから、却下を免れない。

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